診療科
現在の日本では、生涯のうち2人に1人が「がん」になり、死亡の原因の第一位も「が ん」です。なかでも肺がんは「がん」の部位別の死亡率が一番高く、いまだに予後が 悪い病気です。
タバコが肺がんのリスクになるのはよく知られていますが、高齢化に伴いタバコを喫わない人の肺がんも増えています。 肺がんは少し前までは治療成績が良くない病気でした。
しかし近年、治療の進歩が目覚ましく、2018年にノーベル賞を受賞したことで話題となった「がん免疫療法」を始め、治療の選択肢が非常に多くなっています。その分、治療方針を決めるに当たって高い専門性が求められる領域になってきています。
早期には無症状のことが多く、病期がかなり進んではじめて痛みや呼吸困難といった症状が出てくることが多いようです。
血痰、胸痛などの症状で見つかる事もありますが、健康診断のレントゲンで異常を指摘されて受診されることが多いです。
肺がん検査の一歩目として、肺の中を詳しく調べるために胸部CT検査を行います。
肺がんの可能性がある場合は、肺の影に対して組織採取(生検)を行い、診断を確定させます。生検の方法として、気管支鏡検査(後述)、手術による生検(外科的肺生検)などがあります。肺がんの組織を調べることは、診断を確定させるだけではなく、効果がある薬剤を選ぶためにも非常に大切です。治療の選 択肢が増えるにつれて、十分な量の組織を採取することが求められるようになっています。
肺がんの診断が確定したら、次に病気の拡がりを調べるための検査(全身のCT、PET、頭部MRI、骨シンチ検査など)を行います。肺がんの拡がりぐあいを病期と呼び、I〜IV期のどの病期になるかで治療の方針が決まります。
手術、放射線、薬物療法が、肺がんに対する治療の3つの柱です。おおまかにはI〜II期(III期の一部も)に対しては手術を、III〜IV期に対しては薬物療法を行います。病気の状態によってはいくつかの治療法を組み合わせて行うこともあります。手術は外科が行い、内科は手術で取りきることが難しいIII〜IV期の進行がん・ 再発がんに対する薬剤療法を担当しています。
薬物療法には、従来の抗がん剤による化学療法と、がん免疫療法が含まれます。最近は化学療法とがん免疫療法の組み合わせにより、さらに治療の効果が高まることがわかってきました。
また、特定の遺伝子が変化して発生した肺がんに対しては、分子標的治療薬というピンポイントの薬剤を使って治療を行います。
肺がんの治療、とくに薬物療法はまさに日進月歩で、新しい治療薬が次々と開発されています。われわれは常に最新の治療を提供できるように努めています。
これまで述べたように肺がんの治療は進歩し、たとえ進行肺がんになってしまっても、以前と比べるとかなり⻑生きできるようになってきました。言い換えれば、病気との闘いも⻑期戦となっています。
また、がん免疫療法は副作用の起こる割合こそ低いものの、全身のどの臓器にも現れる可能性があります。これらを踏まえると、治療する病院を選ぶうえで次のポイントが大切となります。
気管支喘息の治療は、アレルギー性気道炎症を吸入ステロイドなどで抑える抗炎症治療が根幹となります。
日本アレルギー学会の『喘息予防・管理ガイドライン 2018』では⻑期管理を重症度に合わせて4つの治療ステップに分類していますが、いずれのステップにおいても吸入ステロイド薬が中心になります。
この吸入ステロイド薬の改良が近年かなり進んだ(吸入手技が簡単、吸入回数が少ない、など)ため、気管支喘息の診断さえしっかりつけておけば、ほとんどの患者さんは地域の診療所で受ける吸入ステロイド治療で安定するようになり、近畿中央病院のような総合病院を受診される患者さんはかなり少なくなりました。
気管支喘息発作で不幸にして亡くなられる方も昭和の時代には全国で年間6000人以上おられましたが、2016年には1,500人を切るまでに減少しています。
気管支喘息の治療ステップ(喘息予防・管理ガイドライン2018より)
喘息治療の変遷(独立行政法人 環境再生保全機構のサイトより)
当院で主に治療の対象となるのは、『喘息予防・管理ガイドライン2018』におけるステップ3(中等症持続型)、ステップ4(重症持続型)の患者さんです。ステップ3 になると⻑時間作用型気管支拡張薬の吸入薬や抗アレルギー薬などの併用が必要になることもありますし、ステップ4になるとそれらの併用薬はほぼ必須になります。
またステップ4の患者さんでは、吸入ステロイド吸入薬などの従来の治療薬や併用薬を最大限に使用していても発作を繰り返し、内服のステロイド剤(吸入より副作用が強い)が必要となります。
そのような“最重症型”の患者さんに対する治療として、
などの注射薬があります。これらの薬剤の効果は劇的で副作用もほとんどありません。しかしながら価格が極めて高額で、使用できる方は限られてしまいます。
それでも当院では、常時30人前後の患者さんがこれらの抗体製剤を使用しており、兵庫県下では最も処方数の多い病院とされています。
もし現在の治療で症状が 十分抑えられず、このような薬剤を試してみたいという患者さんがおられましたら、いちど主治医の先生と相談していただき、当院へのご紹介を検討してみてはいかが でしょうか。
COPDは有害物質(主にタバコ)を⻑期間にわたって吸い続けることで肺組織が破壊され、息苦しさが出てくる病気です。
将来的に在宅酸素療法が必要となる方も多くおられます(在宅酸素療法を始める原因として最も多い)。
わが国での大規模な疫学研究(NICE study)では、40歳以上の8.6%がCOPDという結果が 示されており、日本全体で潜在的な患者数は500万人以上にのぼると推測されています。
早期には症状はありませんが、進行してくると「階段を昇ったときに息切れがする」「風邪をひくとひどく息苦しい」といった自覚症状があらわれます。
さらに進行すると、日常生活の動作でも息切れが起きたり、慢性的に咳や痰が出たりするようになります。
早期発見のためには肺活量検査を受けるしかありません。健康診断のときに喫煙者の方に肺活量検査を行う事業者も増えています。
日本呼吸器学会の定めるガイドラインに基づき、禁煙、気管支拡張薬の吸入、呼吸リハビリテーションなどを行います。感冒や肺炎などが原因で一時的な病状の悪化(増悪)をきたすことがあり、その際は入院して抗菌薬やステロイドを短期間使用します。
このような増悪のきっかけとなる感染を予防(手指衛生、ワクチン接種など)することは、とても大切です。
またCOPDの患者さんは肺がんになりやすく、なってしまうと肺の機能が悪いために治療が難しくなることがしばしばあります。
定期的な検査を受けて早期発見に努める必要があります。
安定期COPDの治療 SABA:短時間作用性β2刺激薬、SAMA:短時間作用性抗コリン薬、LABA:⻑時間作用性β2刺激薬、LAMA:⻑時間作用性抗コリン薬 (日本呼吸器学会 COPD診断と治療のためのガイドライン第5版より引用)
2020年はコロナウイルスが猛威を振るった年でありました。
コロナウイルスの最も怖いところは重症肺炎を起こすおそれがあるのに“確実な治療薬が存在しない”ことでありました。
それに対して、コロナウイルス以外の、下気道感染症(肺炎や気管支炎)の起因菌のほとんどは、診断さえつけば“確実な治療薬”が存在します。
したがって当院では起因菌を明らかにするための多くの検査を導入しています。
上記のほか、インフルエンザ鼻汁抗原検査、喀痰一般細菌検査なども習熟した技師により実施されて数時間以内に結果が判明します。
上記の検査を利用することにより、できるだけ起因菌を明らかにして、細菌検査室・薬剤部・他科の医師による感染対策チームから助言を受けながら、確実な薬 物(抗生物質)治療を心がけています。
肺はスポンジのように柔らかく細かい網目状の構造の臓器です。
スポンジの穴の部分が肺胞で、穴の間のしきりの部分を肺胞壁と呼びます。肺胞壁の中には血液が流れており、肺胞の中の酸素を受け取り、代わりに二酸化炭素を肺胞に出します(ガス交換)。
この肺胞壁で炎症が生じると、肺胞壁はむくんで厚くなり、ガス交換がうまくいかなくなります。このような病気が間質性肺炎です。
さらに炎症が慢性的に続くと、次第に肺は硬くなり弾力を失っていきます。この状態を線維化と呼びます。
線維化が起こると肺が膨らまなくなるため、肺活量が低下して、息切れなど症状が現れてきます。間質性肺炎は慢性的に経過する病気ですが、感染などをきっかけに急激に症状が悪化し、命をおびやかすことがあります(急性増悪)。
間質性肺炎の経過
特発性間質性肺炎
特発性間質性肺炎のうち、治療が効きにくいものを特発性肺線維症と呼びます。
特発性間質性肺炎は国の難病に指定されています(指定難病85)。
膠原病に伴う間質性肺炎
薬剤性
職業性(塵肺)
過敏性肺臓炎
放射性肺臓炎
呼吸器の病気の診断において基本となる検査です。
胸にX線を当てて透視し、肺に異常なカゲがないか調べます。異常が見つかれば、より詳しい情報が得られる胸部CT検査を追加します。
肺の異常だけでなく、胸水、心臓や大血管の異常、骨の異常(骨折など)を見つけること もできます。
身体の断面を見ることができる検査です。
一般に横の断面で見ることが多いですが、技術の進歩により縦の断面(冠状面、矢状面)も見ることができるようになっています。
ヨード造影剤を静脈に注射して撮影すると、病気の部分の濃淡がはっきりしたり、血管とリンパ節の区別がつきやすくなったりするので、より正確な診断につながります。
左のレントゲンでは鎖骨に隠れて見えない肺癌が、右のCTでは写っている。
検査機器に向かって呼吸をすることで、肺活量、息を吐くときのパターン(フローボリュ ーム曲線)などを調べます。気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎などの診断や経過観察に役立ちます。
この検査でわかる主な項目は次の通りです。
胸いっぱいに吸い込んだ空気を、力を入れて吐き出し、最後まで吐ききった空気の量です。性別・年齢・身⻑を元に計算する標準の値(予測値)に対する割合(% 努力肺活量)が80%を下回ると異常で、拘束性障害と呼ばれます。拘束性障害の代表 的な疾患は、肺が硬くなり広がりにくくなる間質性肺炎です。
吸い込んだ空気を力を入れて吐き出したときに、最初の1秒間に吐くことのできた空気の量が1秒量です。努力肺活量に対する1秒量の割合が1秒率で、息の通りやすさを表します。
1秒量が70%を下回ると異常で、閉塞性障害と呼ばれます。閉塞性障害の代表的な疾患は、気管支が狭くなる気管支喘息や、肺の弾力が失われる慢性閉塞性肺疾患 (COPD)です。
吸い込んだ酸素は肺から血液へ取り込まれて全身を巡ります。肺から酸素を取り込む能力が肺拡散能です。間質性肺炎では肺拡散能が低下します。
痰の検査で以下のことがわかることがあります。
唾液(つば)ではなく、痰を採って出してもらうことが、正確な結果を得るために重要です。
のどにたまったものではなく、胸の奥の方からなるべく唾液の混じらない痰を出すよう努めて下さい。
痰が出しにくい場合、濃い食塩水を吸入してもらい、出しやすくすることもあります。
肺の中にある異常な影の原因を調べるために⾏います。
1泊2⽇程度の⼊院で検査をします。
咳⽌めの注射、のどの⿇酔をしたうえで、鉛筆くらいの太さのしなやかなファイバースコープを気管内に挿⼊します。内部を観察して、レントゲンで陰影を確認しながら組織を採ったり、気管内を洗浄したりして検体を回収します。
以下の器具を使⽤しています。
通常気管⽀鏡:気管内の観察、組織採取、洗浄などを⾏うことができます。
超⾳波内視鏡:超⾳波で病変を確認するための装置です。リンパ節を気管内から確認するための専⽤の気管⽀ファイバー(EBUS-TBNA)、レントゲンではっきり写らない病変を気管⽀内部から確認するための気管⽀ファイバー⽤器具(EBUS-GS)も準備し、確実な診断に努めています。
CT画像上での病変指定
仮想気管⽀画像の経路表示
気管⽀3D画像