2021.12.22
お知らせ
病院で相談することといえば、治療のこと、療養生活のこと、医療費や介護サービスのことなどが思い浮かびやすいですが、実はがん診療連携拠点病院では、仕事に関する相談にも対応していることをご存じですか？仕事のことを病院で相談する…なんだか違和感があると思われる方もいるかもしれません。そのような流れができてきた背景を、少し探ってみたいと思います。
仕事は家計に直結する問題であり、加えて社会的なつながりを維持するための手段、自己実現のひとつともいわれ、私たちの生活を営む上で大切なものになります。ところが、2019年の厚生労働省「第3回がんとの共生の在り方に関する検討会」の報告によれば、がん患者さまの3人に1人が20～60代の働く現役世代です。さらに厚生労働省ホームページによると、がんと診断を受けて廃業・退職した人は、労働者人口の19.8％に昇り、その中でも約6割の方が、初回治療までに廃業・退職しています。このような実態から、わが国では、がんと仕事にまつわる問題は、全年齢的に大きな課題となり、私たちにとって他人ごとではない事がわかります。そこで、国も対策に取り組みはじめました。
上記のような実態を背景に、厚生労働省は「第3期がん対策推進基本計画」、「働き方改革実行計画」に基づいて、国民が「がんになっても生きがいを持ちながら働き続けることができる社会づくり」に向けて取り組んでいます。
政策の後押しもあり、がん診療連携拠点病院では、がんになっても治療と仕事を両立してゆけるように、相談支援に取り組んでいます。当院でも地域医療福祉センター内にある、がん相談支援センターで相談対応をしています。なお、がんの治療と仕事の両立支援にはふたつの側面があります。ひとつは仕事の継続を支援するという側面、もうひとつは治療のために離職した方に対する求職支援です。仕事の継続支援については、仕事を続けるために、社内制度の活用や、部署の配置転換なども検討しながら、治療と両立できるよう相談にのります。その場合、職場と病院と調整や必要に応じて社会保険労務士などの専門家への相談調整をお手伝いします。
一方、治療のためいったん離職された方に向けて、再就職を希望される場合に、求職支援としてハローワークとも連携を図り、再就職に向けて支援を行います。
治療と仕事を両立しようとするとき、働く人と職場で相談しながら両立を考えますが、近年は「安全に働くためにはどうすればよいか」を、治療を担う病院とも連携を取りながら整える必要性が出てきました。それに向けて政府は、病院と職場の橋渡し役として、両立支援コーディネーターの育成に取り組んでいます。現在、患者さま（働く人）を中心に、病院と職場、両立支援コーディネーターの3者によるトライアングル型支援が提唱されています。また、がん診療連携拠点病院に置かれているがん相談支援センターの役割として、がん患者さまの治療と仕事の両立に関する相談対応も盛り込まれました。
出典：厚生労働省ホームページ(平成29年版 厚生労働省白書本文掲載図表より)
先ほどデータを示したように、がんの告知を受けて、初回治療を開始するまでの間に半数以上の方が廃業・退職をしているという実態があります。どのような仕事に就き、どのような働き方を選択するかは、本来個人の意思が尊重されるものですが、本当は辞めたくはないけど辞めざるを得ないと考え離職する方がいるとしたら、その状況は社会として変えてゆく必要があります。告知を受け今後の治療や、仕事・生活の見通しに不安を覚えることは誰にも起こります。しかし仕事を辞めるかどうかは、十分に考えて決断を下していただきたいと思いますし、辞めると決めてしまう前に、両立に向けて考えてみることをお勧めします。ぜひ身近な方でこのようなご心配を持たれている方がおられましたら、がん相談支援センターで相談する事をおすすめしてください。
また、もし皆さんの同僚や上司、後輩が治療と仕事の両立に困りごとを抱えているなら、ぜひ職場で解決に向けてアイデアを出し合ってみてください。ひとつの成功事例は、今後の新たな事例に対する職場の強みになると思います。また、職場における治療と仕事の両立支援に対しては、産業保健総合支援センターでも相談対応、事業者支援に取り組んでいます。
当院のがん相談支援センターでは、がん患者さまの治療と仕事の両立に向けた患者さまの取り組みを支援します。ご希望がありましたら、がん相談支援センターまでご連絡ください。
